― 流るる星 ―      


★ ささやかな願い一つも言えぬ間に流るる星を一人見送る

★ 悔いひとつ心に消えず夕焼けの名残りとどむる空を見上ぐる

★ 冷房を消したる部屋に聞こえ来る虫の鳴き声思わぬ近さに

★ 幾度も熱出す我のふがいなく古希を過ぎたる姑に看取らる

★ 風邪に伏す床へ夕餉を持ち呉るる膝病む姑の足取り聞こゆ

★ 出張の夫の布団の位置空けて常なる位置に我床を敷く

★ 洗いたてのレースのカーテン柔らかく午後の日差しは居間に届きぬ

★ 鍋囲む湯気の向ふに夫のいて十七年目の記念日迎ゆる

★ 年の瀬の我が誕生日は搗きたてのまろき餅にて祝いとなさむ

★ 恙なく家族揃いて屠蘇を酌むちさき暮らしの喜び思う

★ 洗い終え皿に盛りたるラディッシュの葉付きのままを音たてて食ぶ

★ 新しき鍋を下ろして茹でおりぬブロッコリーの色鮮やかに

★ 特売と書かれて昨日の半値なる枇杷のパックを一つ求むる

★ 根つめて細かき図案に彩つくる眼蓋ときおり強く押さえて

★ 言いにくき事も伝えむ留守電の電話相手に言葉をえらぶ

★ 慰むる言葉もなくて見送りぬ余儀なく職場離るる友を

★ 廃抗に離職者多しふるさとの友より今年は賀状届かず

★ 思い切り髪を短く切り揃え離婚せし友意外にあかるし

★ 盲目の黒人歌手の歌声を深夜のラジオに耳寄せて聴く

★ 途上国の幼き命の消えゆくを自然淘汰と言う人のあり

★ リクルートは遠くになりぬ民の声届かぬ場にて内閣生(あ)るる

★ 少年は篠突く雨の中を来て新聞渡す挨拶しつつ

★ 足の位置確かめながら差し伸ばす我手に触るるつぶら梅の実

★ 望むもの多くにあらねどタンポポの自由に飛ぶを羨しみて見る

★ プランターを越えて伸びたるペチュニアの庭に根を張り勢い増しぬ

★ 瓶にさす菜の花自在に丈伸ばす曲がりし茎は曲がりしままに

★ わが背丈すでに超えたるゴムの木を少し太めの鉢に移しぬ

★ 白々と埃つきたるゴムの葉を一枚一枚手を添えて拭く

★ 音立てて蕾の開く思いしてふくらむ桔梗の花に寄りゆく

★ 杖持たぬトマトは地を這い茂りおり茎よりあまた白根を張りて

★ いびつなる形も親しきめ粗き土肌残し花入れ作る

★ またひとつ薔薇の崩れて床に散る花びら紅く風の形に

★ 冬の陽に向いてポトスは葉を伸ばす浅き緑のハートの形に

★ さみどりの早苗揃いて水吸いぬ尖れる葉先の水滴丸し